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仙台高等裁判所 昭和24年(を)325号 判決

被告人

前田純平

外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を青森地方裁判所に差し戻す。

理由

主任弁護人片山昇の陳述した弁護人小田原親弘名義の控訴趣意について。

本件起訴状によれば公訴事実として「被告人前田純平は東津軽郡原別村所在の本店を大阪に有する大和ゴム工業株式会社青森支店の支店長で商工省より生ゴムの払下げを受け之を以てゴム靴その他ゴム製品を生産し同省の指定に基き同品を販売するところの同支店の業務一切を統轄し、工藤広一は同支店資材営業係長で相被告人前田純平の指揮監督の下に右資材の購入及右製品の販売に関する直接責任者として夫々ゴム靴その他ゴム製品の生産及販売の業務に従事しているものであるが同支店の経営難を打開するため屑ゴムでゴム靴を製造して販売し以て同支店の経営状態を好転せしめようと企図し何等法定の除外事由もないのに業務に関し同支店において同支店生産にかかる無検査品ゴム長靴等を所定の統制額を超過して販売したものである」と、その罰条として物価統制令第三条、第三十三条、昭和二十二年十月十五日物価庁告示第八百七十二号を掲げている。よつて右統制違反に関し被告人等を共犯者として訴追したのではなく各単独犯若しくは同時犯として訴追したかの如く窺知される。しかるにこの点につき原審の如く共犯として訴追したものと認定するには宜敷検察官に対し訴因の訂正、追加或は変更を求める等適宜の措置に基き非となるべき事実換言すれば犯罪の態様を特定した後審判しなければならないのに事茲に出ず轍く共犯なりと断定して判決したのは審理を尽さざる違法があつて判決に影響を及ぼすこと明かな事実誤認があるといわなければならない。しからば原判決は到底破棄を免れない。

(主任弁護人片山昇の陳述した弁護人小田原親弘名義の控訴趣意)

一、原審ハ公訴ノ提起ナキモノニ対シ審判ヲナシタルノ違法アリ

二、仮リニ右審判ガ適法ナリトスルモ事実ノ認定ニツキ誤リアリト思料ス

原判決ハ(被告人前田純平ハ青森県東津軽郡原別村所在本店ヲ大阪ニ有スル大和ゴム工業株式会社青森支店ノ支店長被告人工藤広一ハ同支店資材営業係長デアルガ共謀ノ上何ラ法定ノ除外事由ガナイノニ拘ラズソノ業務ニ関シ)昭和二十三年一月十二日頃カラ同年七月五日頃マデノ間凾館定温倉庫株式会社青森冷蔵庫外一名ニ対シ前後六囘ニ渡リゴム長靴ソノ他二百十五足ヲ製造業者販売統制価格ヨリ二十一万四千三百円ヲ超過スル二十一万八千円ヲモツテ販売シタル事実ヲ認定シ被告人前田純平ヲ懲役六月罰金二十万円ニ被告人工藤広一ヲ懲役六月罰金五万円ニソレゾレ処シ右懲役刑ニ対シテハ何レモ三年間コレガ執行ヲ猶予スル旨ノ判決ヲナシタリ、仍ツテ今コレガ起訴状ヲ具ニ検討スルニ検事毛利将行ハ公訴事実ニ於テ被告人前田純平ハ本店ヲ大阪ニ有スル大和ゴム工業株式会社青森支店ノ支店長デ商工省ヨリ生ゴムノ払下ゲヲ受ケコレヲモツテゴム靴ソノ他ゴム製品ヲ生産シ同省ノ指定ニ基キ同品ヲ販売スル所ノ同支店ノ業務一切ヲ統括シ工藤広一ハ同支店資材営業係長デ相被告人前田純平ノ指揮監督ノ下ニ右資材ノ購入及ビ右製品ノ販売ニ関スル直接責任者トシテ各ゴム靴ソノ他ゴム製品ノ生産及ビ販売ノ業務ニ従事シ居ルモノデアルガ同支店ノ経営難ヲ打開スルタメ屑ゴムデゴム靴ヲ製造販売シモツテ同支店ノ経営状態ヲ好転セシメヨウト企テ何ラノ法定ノ除外事由ガナイノニ右会社ノ業務ニ関シ同支店ニ於テソノ生産ニカカル無検査ゴム長靴等ヲ統制価格ヲ超過シテ販売シ云云ト記載シ右違反行為ハ工藤広一ノ行為トシテ掲ゲラレタリ被告人前田純平ニツイテハ共謀又ハ単独ニテ右事実ニ関与シタル旨ノ記載ナク単ニソノ職務ヲ明ラカニシタルニトドメタリ、然ラバ法人ノ代表者トシテコレガ処罰ヲ求メタリト解スベキカ右純平ハ単ナル支店ノ支店長タルノ職名ヲ有スルノミニトドマリ会社ノ代表者ニアラズ同人ガ工藤広一ト右違反行為ニツキ共謀ヲナサザル限リコレガ責メニ任ズベキ何ラノ理由ヲ発見シ得ズ然ルニ原審ハ右両名ガ共謀ノ上右違反行為ヲナシタルモノトシテ右審判ノ請求ナキ前田純平ニ対シ有罪ノ判決ヲナシタルハ明ラカニ違法ナリト言ハザルヲ得ズ

仮リニ右起訴状ガ前記純平ヲ審判ノ対象トシタルモノナリトスルモ記録ニ表レタル証拠ニヨツテハ右純平ガ行為者タル広一ト共謀シタル事実ヲ全ク認メ難ク又右違反行為ヲナシタルノ事実モ認メ難ク判決ニ援用サレタル証人ノ証言及ビ被告人ノ供述等ニ照ラシテモ前記事実ヲ認定スルニ難シ被告人純平ノ供述ニヨレバ知人デアル田中敬治、吉田正雄ノ両名ヨリ格別ニ冷凍作業ヲスルニ是非必要デアルガゴム靴ガアツタラ譲ツテ貰ヘナイカト言フ電話ガアツタガ自分ハ業務関係ハ分ラナイカラ工藤ニ相談ヲシテ呉レトノ解答ヲナシタル事アリト言ヒ田中外一名モ右供述ニ照応スル証言ヲナシ居リ販売ニツキ承諾ヲ与ヘタル事実モナク殊ニ価格ニツイテハ何ラノ問答サヘシタル事実ナシ又工藤ニ対シテハ右違反行為ニツキ何ラ指シ図ガマシキ事ヲナシタル事モナク右事実モ当時全ク知ラザリシモノナル事ハ警察以来ソノ主張スル点ニ関シテモ明ラカナル処ニシテ原審ガ相被告人ト共謀シタリトシタルハ明ラカニ誤認ト言ハザルベカラズコレハ明ラカニ判決ニ影響ヲ及ボスモノト信ゼラルルヲモツテ宜ロシク御明判アランコトヲ切ニ希望スル次第デアル。

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